8:2のユニーク比
著者: 山口 洋一どうせ作るのなら自分にしか作れないゲームをいつも目指したいものです。たとえいろんな条件や制限があっても、どこかに自分ならではのユニークなアイデアを提案してみるべきです。ただし、クライアントやプロジェクトリーダーに無断でゲームに入れることは絶対NG です。きちんとその人たちを納得させてください。納得させられないのなら、それは何かが不足しているのです。人を巻き込むことができないアイデアは自己満足と言われても仕方がありません。
8:2 のユニーク比
いざユニークなアイデアの企画を提案しても、今どき新しいアイデアのゲームはなかなか採用されません。見たこともないアイデアになかなかゴーサインは出ないものです。
そんなとき、企画をオーソドックスな要素とユニークな要素に8:2 で分けて考えてみてはどうでしょうか?
8 割のオーソドックスな要素でわかりやすく面白さを説得し、2 割のユニークな要素で新しさやオリジナリティを強調する、いわば安定感と好奇心の両立プランです。
8:2 の比率は「パレートの法則」から引用しました。パレートの法則とは約2 割の少数が全体の動きを決定している、転じて物事の本質は全体の2 割の少数にある、といった内容の法則です。これをゲームに当てはめると、コアとなる要素は2 割、それ以外の8 割は派生要素や物量など本質ではないと考えられます。そこで2 割を最も提案したい要素に割り当て中核に持ってきます。そして残りの8 割をできるだけわかりやすい要素とし、安心できるもの、説得力や訴求力のあるものに割り当てます。この場合の割合はゲームの企画構成要素、ボリューム、開発リソースなど全てが対象になります。
ここで重要なのは、2 割の本質が失敗するとダメなゲームになるということです。ですから試行錯誤を繰り返してていねいに作ります。その代わり8 割は既知のノウハウを活用して、できるだけ試行錯誤を省略します。10 割の試行錯誤は大変ですが、2 割なら何とかなるかもしれません。
リスクのあるアイデアを2 割に絞り込み、他の8 割の要素でヘッジして、安定感と好奇心の両立を目指すという考え方は、開発予算を出すクライアントやプロデューサーにとっても、ゲームを開発するディレクターやプランナーにとっても、ゲームを購入するユーザーにとっても、受け入れやすいのではないでしょうか。
適度なチャレンジを続けること
さて2 割のユニークなアイデアがどれだけうまくできても、ゲームは水物、ヒットするとは限りません。だからといってリスクを避けて、10 割オーソドックスの同じようなゲームばかりを作っていては飽きられてしまいます。もちろん10 割ユニークの大博打を打ち続けることもできません。
大切なのは適度なチャレンジを続けることです。続けていれば当たる確率も上がります。チャレンジをしなければ当たることもないのです。もしヒットすれば、新しいユニークなアイデアが広く受け入れられ、やがて定番につながっていく可能性もあるでしょう。
ゲームは本来こうして試行錯誤を繰り返しながら枠を広げてきました。それは突然変異と自然淘汰による進化と同じです。現状のゲーム業界はハイエンド化による開発費高騰で、リスクを恐れるあまり安全志向になりすぎています。それでいてリッチなグラフィックばかりが進化しているゲームは、まるで恐竜のように見えるのは私だけでしょうか? チャレンジという突然変異がないと同じ種ばかりになってしまい、恐竜のように環境に適応できず絶滅してしまうかもしれません。
適度なチャレンジをしてみてください。きっと2 割の中からゲームの未来につながる遺伝子が生まれることでしょう。