30年後のソフトウェア技術者をイメージしてみる

コンピュータが生まれたのは1940 年前後です。まだ70 年ほどしか経っていません。人類の祖先が生まれたのが200 万年前、人類の文明が生まれたのが1 万年前と言われています。地球の誕生から70 年前までの間、コンピュータは存在しません(少なくとも日本では)。気候が温暖で戦争もなく、我々がコンピュータやインターネットを通じて世界中の人とコミュニケーションできることは、とても幸運で奇跡的なことなのです。

私が最初に触ったパソコンは1984 年シャープのX1Cs というパソコンでした。このパソコンはCPU にZ80A というチップを使っており、この中にはトランジスタと呼ばれる素子がおよそ8,400 個乗っています。今、私が使っているパソコンはMacBook Pro、このパソコンのCPU はトランジスタ数が14 億個、およそ30 年で16 万倍です!

1974 年のスーパーコンピュータの性能はおよそ100 メガFLOPS でした。FLOPS は1秒間に小数点を含む数値の計算ができる回数になります。それから30 年後、2002 年に運用を開始した地球シミュレータの性能は131 テラFLOPS、さらに10 年後、2012 年に完成したスーパーコンピュータ「京」の性能は10 ペタFLOPS です。まさに桁違いの性能向上です。

最新のグラフィックスカードの性能は5 テラFLOPS あります。単純に計算すれば、20数枚つなぐと地球シミュレータになります。スーパーコンピュータ「京」と同等の性能ということでは2,000 枚弱程度でしょうか。それほど非現実的な数ではありませんね。調べてみると我々が普段使っているパソコンやスマホの性能は、10 年から20 年前のスーパーコンピュータの性能を持つのです。

このコンピュータの性能向上はムーアの法則に従ったものです。ムーアの法則とは18 ヶ月ごとにトランジスタの数が倍になるというものです。実測では2 年に2 倍の模様です。インテルの研究者によると、今後10 年以上はこのムーアの法則が続きます。さて、このムーアの法則が今後10 年以上続くとはどういうことでしょうか? どんな変化が訪れるのでしょうか? 我々は10 年から20 年前のスパコンを、今、パソコンやスマホとして使っています。ということは10 数年後、スーパーコンピュータ「京」の性能を、普段、普通に我々が使っているということが予想できるのです。

これまでのゲームはコンピュータの性能向上を利用して明らかにリアリティを追求してきました。この映像的リアリティの向上は今後も続くでしょう。しかし10 数年後、おそらく映像的リアリティは行き着くとこまで行き着くはずです。つまり現実の映像と見分けがつかなくなります。プリンタの性能が向上して写真と見分けがつかなくなったことと似ています。現実以上の映像的リアリティはありません。映像的リアリティが行き着くところまで行き着いた後、ありあまるコンピュータの性能はいったい何に使われるのでしょうか?

それは間違いなく知的リアリティ、人工知能です。高度な人工知能はゲーム産業だけでなく我々の生活そのものを劇的に変化させるパワーを持ちます。その一端は徐々にいろいろなところで見えています。みなさんも高度な人工知能がもたらす社会を想像してみてください。そのイメージは確実に来ることでしょう。我々ソフトウェアエンジニアが、がんばればがんばるほど、早く、確実に近づいてきます。2045 年は技術的特異点が来ると言われています。私は30 年後の未来が楽しみでしょうがありません。