芸人としてのライブ活動のススメ
著者: 丸田 康司「どうしてコンピュータゲーム開発からボードゲームの小売り業を始める気になったんですか?」と質問されることがたいへん多いのですが、その質問にはたいてい「ボードゲームなんぞはコンピュータゲームよりイケてない(に決まってる)」「小売り業を始めたんだからお店にずっと立っているしかない」という思い込みが前提になっているので、さてどこから話したものかといつも困ります。〈新しいゲーム価値観の発信拠点〉としてすごろくやを立ち上げた理由には、とてもいろいろな要素が絡み合っているため、一言で表すことはなかなか難しいのです。どうかなと思いつつ「ボードゲームが好きなんですよ(にこにこ)」と濁してみたりして。
その中の要素をひとつ切り出して「ライブ体制を必要としていた」を挙げてみます。
コンピュータゲームを制作しながら常に憂いていたことのひとつとして、ゲーム制作・展開活動の中に音楽でいうところのライブやコンサートがないため、大衆性についてズレていく、というものがありました。
音楽のライブやコンサートは、演者が生で演奏するということ以上に、どこでどう喜ばれるか、またシラけるかを、単純な0 と1 ではなく、彩りや起伏の空気として感じとれる機会としての意味が大きいのです。
ライブをしないミュージシャンは、その肌感覚が失われていき、アーティストとしての活動を強めていくでしょう。オレらを解らないやつは置いていくぞ、と。
ゲーム作りについても同じです。
「アーティスト=自分が喜ぶものを作り、それを喜ぶ人が多いほど嬉しい」を意識して活動するなら「わからないのは置いていく」の方がいいのですが、もし「エンターテイナー:自分を含む、より広い他者が喜ぶものを作る」を望むなら、〈喜ばれ方〉を自分に取り込む機会がないままスタジオにこもりっきりではマズいのです。
特にコンピュータゲームの場合、たいていは1 人で遊ぶものですから、どうしても自分が面白いかどうかが主軸になりがちです。でも、そもそもゲームのさまざまな要素において「どのくらいうまくやれるか」は、人や経験によってまったく異なるわけですから、自分を基準としていいものかどうかは常々気にする必要があるでしょう。
一(いち)芸人としてのライブ活動をお勧めします。
「ゲーム好き」だけではなく、家族や年配の方、子どもたち、接点のない人や身近な人、愛する人に提供することで、ゲーム遊びを共有してみてください。
その際、自分が好きなゲームを遊ばせるのではなく、絶対に面白いと思ってもらえるはずだと考え抜いたゲームを選んでみましょう。もしそれがハズしていたなら、あなたは間違いなくズレているのです。というか、まずハズします。でも、悲観する必要はありません。何度も何度も繰り返せばいいのです。ズレに気付いたこと、そしてそれを補正してゆく過程は、とてつもなく大きな糧になることでしょう。
使用するゲームはコンピュータゲームでもボードゲームでも構いません。ただ、ボードゲームやカードゲームのほうが、一度に複数人を楽しませられること、また、そもそも共有する前提で作られていることもあって、こうしたライブ活動により適しています。特にすごろくやで取り扱っているような、ドイツを発祥とする近代のボードゲームには、手順がシンプルで収束性が高く、ひとつのゲーム性を軸にブレていないものが数多くあるため、「ライブ活動の引き出し」としての利用価値は高いでしょう。
「ディスクジョッキー」ならぬ「ゲームジョッキー」として、「打率の高い」感性を磨いてみてください。
こうしたゲームのライブ活動を通じて、社会におけるゲームの機能や役割について考えるきっかけとなれば幸いです。