発表・講演は、前半にメディア向けの「おみやげ」を
著者: 伊藤 雅俊IGDA 日本は、以前はゲーム開発者セミナー、最近はSIG ごとのセミナーを頻繁に実施しています。セミナーが取材されて記事が掲載されるのも普通になりました。IGDA 日本の活動を、各メディアの取材記事をきっかけに知ったという方も少なくないかと思います。
私も2002 年から2006 年頃まで取材にお邪魔していましたが、私の記事、発表者から見て「あれ?」となったものもずいぶんあったと思います。講演で伝えたかったことと、記事で取り上げられた論点がずれている、というケースです。
ただ、いったん記事として出て多くの人に読まれてしまうと直しがきかないのが実際のところです。メディアは明らかな間違いを除いて公開済み記事の修正に応じないのが通常ですし、最近では転載ブログやまとめサイトが増えたため、なおさらです。
拙稿はそんな不幸を避けるために、講演者の皆様におかれましては、ぜひ講演前半に、記事にしやすい「おみやげ」パートを(おもに私のために)用意してください、というお願いです。自分の都合ばっかり言ってますね。すみません。でも続けます。
たとえば「多拠点インディー開発の省力化チャレンジ:GitHub とJenkins でUnity3DゲームをCI する」といったタイトルをつけたとしましょう。内容はCI 寄りで、冒頭からJenkins の設定の紹介や、ビルドスクリプトの紹介で突き進んだりするとしましょう。
もういけません。
会場にいるゲーム開発者の皆さんだけであれば大丈夫かもしれません。しかし、全体像の見えるタイミングが後になればなるほど、日常業務が開発でない取材者は頭がパンクしてしまいます。
取材に来ているライターさんは、ネタを拾うか捨てるかの判断が任されていることもあれば、「とにかく行って書いてこい」という場合もあります。しかも、原稿料は載った原稿に対して出るものなので、「行ったけど書けませんでした」というのは、特にフリーだと難しいところです。さらに、他のメディアが記事化したのに自分だけ書けてないという事態は絶対に避けなければなりません。そんなことになれば以後の取材仕事を失注しかねません。
このような状態で仕上げられた原稿は、講演した側が枝葉のつもりで語ったフレーズが大きくピックアップされてしまったりする可能性が出てきます。
これが悪いほうに転がると大変です。
技術系セミナーの取材記事をゲームメディアが書く場合、次の4 点をまとめる形になると思います。
- 講演者がどの会社の誰で、どのタイトルに携わっていたか
- 講演で紹介された技術は、どのタイトルに利用されたものか
- その技術の概要と、タイトルの開発にどのように貢献したか
- 発表者のコメント
このうち、4 番目の「コメント」だけは、講演のどこから拾われるかコントロールしづらいのですが、上の3 つについては講演者が早いタイミングで明示することでコントロールできます。
タイトルで「おみやげ」と書いたのは、これら3 点の「持ち帰り品詰め合わせ」になります。初公開画像などで「おみやげ」をアップグレードしていただくと、取材者はさらにハッピーになります。
さて、取材者が講演前半で「書くべき記事のあらすじ」を受け取ってしまえば、後半で各論に突入しても割と安全です。その「一目見ただけでは意味のわからないスクリプトや設定情報のスライド」がどの話に関係するのか、そして、記事的に捨てていいのかマズいのかが見えているからです。
ゲーム系の発表の場合、発表される方がサービス精神旺盛だったり(ここはゲーム系セミナーで講演される皆様のすばらしいところです!)、ビジュアル要素が豊富にちりばめられたり、個別タイトルに絡めたパートが入ったりするため、だいたい大丈夫なのですが、各論に踏み込んだ講演をされる際などに、ちょっと思い出していただければ幸いです。