教育・研究機関はゲーム産業の一部である

昨今のGDC やCEDEC などの技術カンファレンスの状況から、ゲーム開発において、アカデミックな研究開発の事例を開発の現場で活用するなどの連携は当然のものである。大学の持つ特許の利用や、大学と企業の共同研究や受託研究といった直接的な連携もある。さらに、大学院の修士課程や博士課程に在籍した人材がゲーム開発会社の開発部門や研究部門に採用され、学術界の先端事例を応用することもある。また、ゲーム開発会社の開発経験のあるスタッフが、研究員や社会人大学院生として研究室に参加したり、教員として転職したりすることで、産業界からの視点を与えることもある。

こうした取り組みが、日本のゲーム分野で当たり前のこととして実践できるようになるために、本書を借りて述べておきたい。

それは、教育・研究機関はゲーム産業の一部であり、「産学連携」という言葉を出すまでもなく、目指すべきものの多くを共有しているパートナーであるということである。

産学連携という言葉は当たり前のように利用されているが、本来はおかしい言葉であると私は考える。ゲーム開発においてはハードウェアベンダー、ソフトウェアベンダー、システムコンサルタントなど、多くの非ゲーム開発企業と連携している。しかしこれに対して、ことさらに「○○連携」というような言葉は使わない。ゲームを開発していくうえで、開発会社以外のさまざまな企業が連携するのは当たり前である。同様に、大学の資源を使うことが当たり前であれば、産学連携という特別な言葉を使う必要はない。実際に海外ではそうした事例が多く存在していることは、GDC やSIGGRAPH を訪れたり、その資料を見たりしたことのある業界関係者であればご存じのことと思う。

もちろん「大学の目指すべきゴール」と「産業界の目指すべきゴール」や、そのために課せられたタスクは異なる。その結果、それぞれの職場で働く人々の意識は異なるし、それぞれの「常識」が違うのも当然である。しかしそれらの違いを当たり前のものとして理解すれば、有益な関係を持つことができる。

もともとゲーム開発は異なるさまざまな素養が集結して初めて実現するものである。その素養のひとつとして、アカデミックな視点や大学の先端研究の事例も取り入れていくことはそれほど困難ではないはずである。

私は上記を実践すべく、産業界のひとりとして、産業界の発展と国際的競争力の向上のために、大学のど真ん中に在籍し、活動していきたいと思う。