居酒屋にて
著者: 藤田 善勝子供がゲームクリエイターになりたいと言い出すと、親は反射的にそれを止めたくなるようです。それはなぜでしょう。
ゲームという言葉は世間にありふれていますが、その本質が何か説明するのは、なかなか難しいことです。ましてゲームに関わりを持っていない人がゲームの仕事を想像できないのは無理もないことだと思います。親の反射的な拒絶反応は知らないことへの警戒からくるものなのでしょう。
子供がゲームの仕事に興味を持っているという知人から相談を受けることがあります。そして、そのほとんどが「ゲームの世界は子供が考えているほど甘いものではない」という話を聞くことを期待しているようなのです……
A:子供がゲームの仕事がしたいっていってるんだよ。とりあえず反対したんだが、ゲームといえばお前が長い間やってるから、話を聞きたいんだ。
B:もしかして「ゲームで遊ぶのとゲームを作るのでは話が全然違うよ」とか「ゲーム好きが集まってゲームを作れば面白いゲームができるとか甘いよ」とかの話が聞きたかったりする?
A:そうそう、それそれ。
B:ふーん、なるほどね。でもな、実はゲームを遊んでないやつに面白いゲームは作れないんだよ。ゲームで遊んでなければゲームの面白さを理解できてないってことになるだろ。というわけで、ゲームを作りたいっていう場合は、ゲームを遊ぶのとゲームを作るのは同じ話になるんだ。いまは遊んでるところばかり目に付くから気になるんじゃないのか。
A:でも遊ぶのは簡単でも、作るのは難しいとかあるんだろ?
B:そうだな、理系の学生ということなら少しエンジニアの視点で話しておこうか。ゲームはテクノロジーとアートの融合したもので、その意味で他のエンジニアリングとはちょっと違うと言えるし、向き不向きがあるとも言える。あとゲームプログラマーと聞くとゲームに特化したプログラマーと思うかもしれないけど、実際には広範な知識が要求される。ビジュアルやサウンドに関しては当然として、ハードが未完成でファームウェアも信用できないのを相手に開発をすることもあるんだ。今は簡単なゲームなら簡単に作れるんだけど、最新のハードでその性能を活かしたゲームを作りたいと思えばそれなりの知識と力量が要求されることになると思うよ。でもそれはエンジニアならおもしろいと感じるはずだな。
A:たしかにおもしろそうだな。ちなみに何かゲーム向きの資質ってあるのか?
B:ゲームの制作はジャンルの異なる人間がチームを組んで1 つのものを作ることになる。そして専門バカの集団ではおもしろいものは作れない。メンバー全員が自分の限界を知り、相手の能力を尊重して総合的に高いクオリティを生み出すことが要求される。メンバー全員に高いコミュニケーション能力が必要になるわけだ。例えばプログラマーなら、単に短期間に信頼性のあるコードを大量に書ければよいということでは済まなくなる。これはゲームに限らずエンジニアには当たり前のことになっていくとは思うけどね。
A:もしゲームの仕事を目指すとしたらアドバイスある?
B:就職決める前になんでもいいからゲームを作ってみるといいな。自分のやりたいことが本当にゲームの仕事なのかどうかわかると思う。1 人で作ってみてもいいし、仲間を集めて作ってみてもいい。スマホ用ならできあがったものを世界中に販売するのも簡単だしな。いい時代だよ。もし将来ゲーム関連に進まなくても、学生のときにゲームの完成品を作ったという経験は必ず生きるはずだからね。
A:ところで、おまえの子供がゲームの仕事やりたいって言い出したらどうする?
B:とりあえず止めるね。
A:……
B:親に止められたくらいで考え直すようなら、やめたほうがいいしな。
A:なるほど(笑)