学問に終わりなし
著者: 山根 信二日本のゲーム教育のレベルは低いといわれる。たとえばCEDEC 2010 では海外から来た開発者が「ゲームの作り方やゲームデザインを教えるプログラムがない」「友人に専門学校生がいるが、そこで教わっている内容のレベルがあまりに低くて驚いた。非現実的だと思う」と指摘されている。ここで海外の開発者が日本の教育を見て驚いている背景には、教育制度の違いがある。欧米の教育機関(おもに大学や大学院)にはゲーム開発を学ぶコースが数多くあり、ゲームに関係のある学位を取得し、ゲーム開発の経験も積んでからゲーム産業に進む。つまりゲーム開発者は、長期にわたる訓練と認定制度が必要な高度専門家として位置付けられているのだ。
ただし、海外のどの大学でも良い教育が受けられるわけではない。北米では調査機関が毎年ゲーム教育機関のランキングを発表し、州立大学も私立大学も専門学校も区別せずに順位付けが行われる。これは入試ランキングとは異なり、大学教育の質を調査しているため、有力な教員が動くと翌年のランキングも変わる。日本企業もこの教育改革の流れとは無縁ではなく、すでに海外の先進的な大学院のキャンパス内に子会社を設置している。
そしてゲーム産業に就職した後も、専門家としての勉強には終わりがない。欧米では社会人が大学院でゲームや先端技術について学びなおすキャリアアップも珍しくない。特に2013 年になって大学の授業をオンラインで提供するプラットフォームサービス「MOOCs」(大規模公開オンライン授業)が注目を集め、大学に通わなくてもインターネットで自分の学びたい科目を受講でき、有料の成績証明書も取得できるようになった。どのプラットフォーム上にもゲーム関連の科目が予告されている。たとえばモバイルアプリの開発からプロモーションまでを学ぶ科目、ゲーミフィケーションについて学ぶ科目、そしてゲームAI のような専門領域について一学期かけて学ぶ科目などさまざまなコースが予告され、全世界から受講者を集めている.
このようにゲームのデザインや開発について学べるように世界各地の学校が競争している中で、日本の学校も教育改革に取り組んでいる。4 年間かけてゲーム開発について学ぶコースを設置したり、海外の提携校に長期滞在して教育が受けられたりする学校も出てきた(ただし現地の学校で教育を受けたという認定証をもらえる場合と、もらえない場合の両方がある)。こうして大学教育が個性化する一方で「大学説明会でゲームを展示していたのに、入学したらゲームの専門科目がなかった!」という残念な事例も存在する。受験生は「ゲームを研究対象にしている学生がいる」というだけでなく、4 年かけてゲームを体系的に学ぶ専攻があるのかどうかに注意してほしい。
そして「本格的なゲーム教育コースじゃなかった!」と入学後に気がついた学生も、絶望するのはまだ早い。大学によっては交換留学制度があり、留学先にゲーム教育のランキング上位校が入っている場合があるのだ。北米だけでなく北欧・西欧・シンガポールなどにもゲーム教育の拠点があるが、交換留学制度を利用することで、日本の大学に学費を納めながら、それらの拠点校でゲーム教育を受けたという履修証明をもらうことも不可能ではない。このようにゲーム開発について学びなおす機会はさまざまなところに広がりつつある。