夢を見るのもタダじゃない
著者: 末広 幸子煮詰まると一人、事務所の台所でパンを焼く。
この本の中で、「ゲームクリエイター」としての大事なことやエッセンス的なものについてはきっと他の先輩たちが書かれると思うので、私はここでそういう話はしない。代わりに、自分が体験したささやかな(自営業レベルでの)起業経験について書こうと思う。
直前に務めていた会社が経営難に陥り従業員がリストラされる中、幸い自分たちにはフリーで仕事の相談がすでにいくつかあった。そうすることがその時の最良の選択だったので、というまったくキラキラ感のない理由で仲間とともに2011 年に株式会社シフォンを立ち上げて、もう2 年ほどになる。
6 人でオンラインゲームの運営開発と、サポートやその関連事業の受託をしている小さな会社だ。
仕事は常にフリーダムなのか?
自分たちで会社を作ったおかげで真・裁量労働制など実現したことも数多い。
仕事の裁量の幅が広いことや、福利厚生でソフトドリンク飲み放題&食事補助あり。煮詰まったらゲーセンに行ってくれてもいい。私は煮詰まったら日中でもおもむろにパンを焼く。しっとりと膨らんだ生地に指を埋め、コネコネしつつ「あーあの件どうしよっかなあ」などとやるのだ。
当初このフリーダムぶりに憧れた別の会社の後輩や同僚が入社したがって困ったこともある。
だが、そんなに毎日がバラ色なわけがない。
パンどころかカップ麺の日々もあるのだ。
それに何より、何か試行錯誤をするにしても、もう誰も叱ってくれる大人はいないから自分が大人として振る舞うしかない。
自分の場合人間ができてないので、ここが地味にしんどい所でもある。
また、一般社員であっても、社員それぞれが自分の給料以上に稼がなくては、という意識を持っていないと、次のことにチャレンジするだけのタネ銭がたまらない。
うちの場合、営業が代わりにクライアントとの間に挟まってくれたりはしないので、自分の担当業務分はダイレクトに取引先と全てのやり取りをすることになったりもする。何かあれば自分で交渉し、仕事は回すこと。人見知りにはきつい仕事でもあるだろう。
自由には確実に代償がついて回るし、自分でそれをペイしなければならない。
周りの理解が大事でもある
今までは仕事そのもののスタンスの違いだが、仕事は実入りにつながるので、起業をするなら家族への説明も必須になるだろう。
一応何かのときのためにと思い、両親に説明に行った折、すでに仕事が1 年以上先まで契約締結していると伝えたところ、彼らは何も言わなかった。
こういう話は別に自分だけのことではなく、創業に関わったそれぞれの従業員も自分の恋人や、家族には事情を説明していた。
いくら自由とはいえ、頃合いのいい時間に仕事が終わるわけでもなく、当時の給料は激安だった。いろいろと軌道に乗るまで節約もしなくてはいけないだろう。
この辺りの代償を考えると普通のある程度年数が続いている会社に入ることのメリットは、計り知れないかもしれない。
生活面で言えば、いろいろな社会的な信用もあり、住宅ローンなどのような審査も有利だろう。人がいっぱいいれば有給だって取りやすいだろう。
その代わり、自分がプロデューサーのプロジェクトであってすら、物事を確定させるまでに上司への説明、稟議に長い時間を割くことになるかもしれない。または「専門外」で触らせてもらえない部分も増える。でも、それも言い換えれば「心配しなくてもちゃんと専門の人がいる」のだ。そんな雑事は触る必要がない。
大きな会社ではいろいろとルールはあるだろうが、お給料以上に確実に何かしらの恩恵を受けてはいるのだと思う。
と、そんなことをつらつら言ってきたが。
こういう細かい代償の先があっても、今やっている仕事や仲間を含め、それを補って余りある財産があるけれど、会社を作ることは万人にはお勧めできない選択だと思う。
だけど、もろもろを承知のうえで、もしあなたがいつか、チームで、自分たちだけのサービスを作りたくなったら、会社を作ることもひとつの手段として考えることをお勧めする。
カネがある保証はないけど、自由度は抜群だ。