同人ノベルゲームで海外展開

僕たちの『こえんちゅ!』という同人ゲームは声優学校をテーマにしたノベルゲームで、ロケハンから製作まで1 年近くかけて、じっくりと作りました。

このゲームを、日本語・英語・スペイン語にローカライズし、アメリカのダラスやロサンゼルスをはじめ、タイ、マレーシア、台湾などで頒布しました。

同人ゲームというと日本国内、そして即売会や委託だけ……というイメージがあると思いますが、世界中の人に遊んでもらったのです。

きっかけは好奇心

知り合いにカナダ人の友達がいて、オタクでもあったので、ちょっと手伝ってくれない?といって翻訳してもらったのがキッカケです。

体験版が完成し、海外のサイトにダウンロードアクセスを書き込んだところ、予想をはるかに超える反応がありました。「完成を楽しみにしてる!」とみんなから言われ、賛同者も現れ、引くに引けなくなったのです。もちろんやり方などわかりません。

まず「LemmaSoftForums」というサイトで人を集めるところから始まりました。ここは世界中でビジュアルノベルゲームを作っている人たちが集まるフォーラムで、日々ツールに関する情報や、ゲームの作り方に関する掲示板などさまざまな内容が話されています。

大事な4 つの要素

僕が海外の人と一緒に作ったことで痛感したことは次の4 つです。

  1. 目に見えるものが見えたもの通常、自分たちは、見えないところを補おうと想像力を使います。文字だけで風景を想像し、声だけで人物を補う。ゲーム製作においても、ダミーデータや仮素材など、さまざまな「見えない」ものを前提に製作は進んで行きます。しかし、海外の人と作業する時は通用しません。目に見えるモノが全てです。ないものを前提に作業はできません。必要なものは事前に用意する必要があります。

  2. 氷を溶かす最初に共通の会話を見つけて話し始めましょう。これを一般的には「アイスブレイキング」と言います。各国の翻訳者と挨拶をするときには、毎回ゲームの話をしました。今こういうのが流行ってるとか、好きなゲームは何? とかで十分です。

  3. 信頼を超えるツールはない便利なツールが数多くありますが、一番大切なのは信頼関係です。僕たちはまず、制作中のゲームを郵送しました。ネットのやりとりだけでは人間関係がつかみにくかったからです。サークルのT シャツを作って相手に送ったりもしました。おかげでアメリカに行ったときも初対面でしたが、スムーズにやりとりできました。

  4. 情熱、そして時間がキモモチベーションは時間が経つにつれて下がります。むろん中には強力な熱意を持って持続している人もいますが、それはマラソンのようなもので、普通の人には難しいです。できるだけ早く作ることが大切です。

とにかく制作は手探りでした。同人サークルなので十分なお金があるわけではありません。いかに制作してくれる人のモチベーションを管理し、維持していくかに時間を使いました。最初に良い関係を築ければ、あとはそのままにしていても制作は進みます。コミュニケーションの重要性を改めて痛感しました。

海外のアニメコンベンションで頒布する

アメリカのアニメコンベンションで頒布したとき、ノベルゲームを手に取る女の子が多いことに驚きました。海外ではノベルゲームを遊びたくても遊べない人が多いのです。なかには「ゲームとして認識」されておらず、遊びたい人がいても、ゲームがない。仕方がないので自分で作るしかない、という国もあります。僕たちは普段何も考えずにゲームを手に取ることができますが、それが当たり前じゃない国の人がいることに驚きました。

作ってみて思ったこと

今回初めてこういう形で海外の人と一緒に制作したことで、とても貴重で楽しい経験をすることができました。アメリカのとあるアニメコンベンションのパネルで、自分たちが昼間は普通に仕事をしていて、夜にゲームを作っているということを話すと、通訳の女の人が僕に向かって「すごい! バットマンみたいですね!」と言ったので、思わず大声で笑ってしまいました。

ゲームを作って海外の人とふれあい、世界中に行くことが楽しくて仕方がなくなる。こんなに楽しくて素晴らしいことはありません。本当に作って良かったと思いました。

技術やネットワークの発達で、個人でも世界中の人と一緒にゲームを作る事が可能です。あなたの作ったゲームを地球の裏側で楽しみにしている人がいるって、とても素敵なことだと思いませんか?