ボードゲームに見るデジタルゲームの可能性
著者: 金山 大志デジタルゲームと違ってルールむき出しのボードゲームでは、その遊びやおもしろさの分析・改変がとても手軽に行えます。
日本では市民権を得たボードゲームはあまり多いとは言えませんが、世界(特にドイツ)に目を向けると数多くのタイトルがリリースされています。ハードルが高く感じられるかもしれませんが、『人生ゲーム』や『UNO』などと同様に、手軽に始められるものも多くあります。まずはこれらをいくつかご紹介します。
- 『DOMEMO /ドメモ』シンプルなルールのタイルゲームですが、さまざまなゲームの要素を内包。
- 『GESCHENKT /ゲシェンク』プレイヤー間の駆け引きの妙をカードとコインで再現。
- 『VERFLIXXT !/勝利への道』スゴロクのルールを逆手に取った逆転の発想。
どれもシンプルなルールでわかりやすく、1 プレイで5 分~ 30 分程度と、ボードゲームに馴染みがない方でも試しやすいでしょう。
このようなシンプルでライトなゲームにも、遊びの要素はふんだんに含まれています。
手始めにこれらをプレイして頂いて、さらに興味を持っていただいた方は「ドイツ年間ゲーム大賞」の受賞・ノミネート作品をいくつか試してみるのがよいでしょう。
何百とあるボードゲームの中でもゲームデザインの参考にしやすいものが見つかります。
いくつもボードゲームをプレイしていると、特に次のような要素についてたくさんのアイデアを提供してくれます。 - ルールのシンプルさと攻略性のバランスプレイヤーの戦略性・やり込み要素・奥深さを実現する上で、わかりやすくてモチーフに沿ったルールにどう落とし込むのか、という産みの苦しみを経験したゲームデザイナーは多いはずです。良い意味でも悪い意味でもボードゲームにはさまざまな設定とルールの組み合わせがあり、より綺麗なルールに落とし込む上で、たくさんの参考事例を提供してくれます。例えば先に紹介した『ドメモ』はものすごくシンプルなルールで、1 ~ 2 分説明すれば初めての人でも簡単に一緒に遊ぶことができます。さらに手軽さの中に遊びの要素がいくつも埋め込まれています。場の状況と他プレイヤーの動向から自分の状況を読み合う要素、ランダム性と公開情報のバランス、お互いのプレイヤーの嘘を読み合う駆け引き。これらの要素が組み合わさった奥深さがあり、攻略性が高いゲームになっています。
- ランダム性と戦略性のバランスボードゲームにはランダム要素をうまく取り入れたタイトルがいくつもあります。ダイスロールやシャッフルカードのドローといった手法で実現されています。逆に、将棋やチェスといったランダム性のない完全情報ゲームは、プレイヤーの技術や能力の差を逆転することが難しいのです。ランダム性が加わることでさまざまな人が一緒に楽しめるゲームになりますが、諸刃の剣として敗者の納得性や、繰り返しプレイしてスキルを磨くモチベーションが失われる危険性もあります。麻雀のようにランダム性が高いゲームにも、繰り返し何度もプレイしたいと思わせる力を持ったものがいくつかありますが、これはこれでルールの複雑性に起因するライトユーザーの入りにくさがあります。このようにさまざまなゲームデザインのバランスを試行錯誤する上で、ボードゲームの知識が力になります。
- ソーシャル性複数人でプレイすることが多いボードゲームは、ソーシャル性を考える上で膨大な手法と生み出されるおもしろさの事例を提供してくれます。▽『パンデミック』のようにプレイヤーが協力して1 つの目的をめざす▽『ミスターX』『レジスタンス』のように協力と敵対がある▽『カタン』『リスク』のように個々のプレイヤーがトップをめざす中で随時、協力関係が発生するなど。また、ルール外にも目を向けると、『マジック・ザ・ギャザリング』を始めとするトレーディングカードゲームのように、勝負に勝つために強いカードを手に入れたいといった心情を誘発させ、ソーシャル性の射幸心への変換に成功した例もあります。
さまざまなゲームをプレイしてみると、ボードゲームには、まだまだデジタルゲームでは再現されていないおもしろさや、ゲームを通じた人との関わり方などの魅力が埋蔵されていることがわかります。これらの要素はデジタルゲームの今後に多くの可能性を示しているように思えてなりません。
皆さんの頭の引き出しにボードゲームを取り入れてみてはいかがでしょうか。