ゲームを作っただけでは共感されない
著者: ケイト・エドワーズグローバル市場で真に必要なこと
デジタルコンテンツ産業におけるローカリゼーションの重要性は、改めて説明する必要がないほどでしょう。特にゲーム業界では全売上高の約50%がオリジナル版ではなく、(当該パブリッシャにとって)海外市場向けのローカライズ版から生まれている、という現実があります。企業によって年間収益におけるローカライズ版の割合は25%から75%とバラツキがあります。古いゲームタイトルから埃を払い落とし、新興市場に向けてローカライズすることに、投資価値を見い出している企業もあります。中には投資額に対する増収が400%というめざましい例もあるほどです。ではグローバル市場に乗り出すために、言語翻訳以外に何が必要なのでしょうか?
多くのパブリッシャではローカリゼーションを当然の行為と受け止めています。FIGS(フランス語・イタリア語・ドイツ語・スペイン語)そして日本語をはじめ、中国・韓国語・ロシア語そして北欧言語へのローカライズも珍しくなくなっています。もっともゲーム産業のグローバル化が進む中で、たんに言語翻訳を行うだけでは、現在の収益を維持し続けるのは難しくなっていくでしょう。いまやゲーム開発は世界規模で行われており、新興市場の地元ゲーム企業と、グローバルIP との競合が急ピッチで進んでいるからです。
ローカライズが必要なことは疑いありません。しかしカルチャライゼーションの必要性は見落とされ続けています。カルチャライゼーションとは言語翻訳だけでなく、多数の文化が交錯する世界市場や、特定の市場におけるゲームに対する根本的な価値観の相違、ゲームと地域文化との相性を深く精査する作業のことです。ローカリゼーションは主に翻訳を通してプレイヤーのゲームに対する理解をサポートしますが、カルチャライゼーションはより深いレベルでの共感をサポートします。またプレイヤーの属する文化的背景や価値観と乖離した要素を排除することで、プレイヤーの心が冷めるのを防ぐことができます。単にゲームを作っただけでは、きちんと理解してもらえない可能性があるのです。
カルチャライゼーションの3 ステップ
はじめに、ローカリゼーションはカルチャライゼーションの一部だということを認識しましょう。カルチャライゼーションは次の3 段階に分けられます。「①反応的カルチャライゼーション」「②ローカリゼーションと国際化」「③能動的カルチャライゼーション」です。よりかみ砕くと「コンテンツを成功可能にする」「コンテンツが理解されるようにする」「コンテンツを意味あるものにする」となります。
「コンテンツを成功可能にする」とは、コンテンツを対象市場から拒否されないようにする、という意味です。対象市場の政府および消費者が、そのゲームに対してネガティブに感じる要素を取り除き、コストとブランド価値の低下を防ぐ作業です。この作業を軽視したばかりに、炎上や回収騒ぎに発展したタイトルは数多くあります。
次の「コンテンツが理解されるようにする」という作業は、一般的なローカリゼーションのステップをさします。文字翻訳だけでなく、ウィンドウや文字の大きさ、文字コードなどの変更にも注意が必要です。
最後の「コンテンツを意味あるものにする」作業は、コンテンツをより根本的なレベルで仕立て直すことで、プレイヤーがより新味に感じることを目標とします。まだ業界で認識が始まったばかりで、リサーチと時間が必要ですが、投資に対するリターンの潜在的価値は高いと言えます。こうした作業を経ることで、対象市場のゲームコミュニティとより密接な関係を築くことができ、「市場特性をよく理解しているスタジオ」としてのブランド価値を高められるでしょう。
状況は好転しつつありますが、ローカリゼーションの多くはいまだにゲームの開発サイクル後半で行われています。しかし、成功事例の多くではローカリゼーションを開発の初期段階から意識し、プロジェクトの進行全体を通して取り組んでいます。特にカルチャライゼーションを進める上では、これが必須です。つまりカルチャライゼーションとは海外市場を意識したゲームプロジェクトにおけるゲームデザインや、開発と販売を通したサイクルの支柱となるべき、体系的なマインドセットなのです。カルチャライゼーションはゲーム開発における創造性を減衰させる重石のように見えますが、実際はデベロッパーが苦労して生み出したゲームや思いを、世界中のできるだけ多くの文化やプレイヤーに届けるための道標なのです。