ゲーミフィケーションが教育を変えるかも?
著者: 岸本 好弘ビデオゲームを「作る人」から「教える人」になりました。
大学での授業やフィールドワークを通して「ゲーミフィケーション」の教育分野への活用を研究しています。
「ゲーミフィケーション」は2010 年代に入って広まった言葉で、ゲームの楽しさやおもしろさ、進んでプレイを続けたい気持ちを引き起こす素である「ゲーミフィケーション要素」をエンターテインメント以外の分野に活かそうという取り組みです。例えば、サービス、リハビリ、教育といった社会活動において、関わる人の集中力が高まり、作業効率が上がり、達成感を感じ、さらに挑戦したくなる。ゲームに夢中になるのと同じワクワク感とチャレンジ心を持って続けるうちに、気がつくと1 つ上のステージに到達している……それが理想です。
今の大学生は1990 年以降生まれ、『ポケモン』と共に育った、いわば「ゲーム・ネイティブ」。かつて「不良の遊び」と言われ、親や先生に隠れて遊んだものだった(1970 年代後半~ 80 年代前半)……などという暗いビデオゲーム観は“ 伝説” としてしか知らない世代です。国際的な比較で日本人の学力低下が懸念される中、ビデオゲームの先進国として蓄積してきたノウハウを活かすことはできないか? 活かしてみせるべきではないか? そんな取り組みの一端をご紹介します。
1. 大学教育におけるゲーミフィケーションの実践
大学2 年生を対象とした講義「ゲーム制作技法の基礎」(90 分× 15 回、120 名受講)において、「ゲーミフィケーション要素」を組み込んだ新しいスタイルの授業を実施しました。
例えば、ゲームのようなポイント加点式の評価ルールの公開と途中成績の発表・表彰、毎回の授業後のレポート(感想・質問・要望)に対する3 日以内のブログでの即時フィードバック、グループワークの多用や自発的な発言・ユニークな意見の称賛による自己表現の促進、自主的な取り組みを評価する「授業ロゴデザイン制作」や「アドバンス課題」、ネット動画とワークを組み合わせた「オンデマンド授業」、代表学生数名と私とのやり取りを観客的立場で聴講する「舞台型授業」などです。
結果、9 割以上の受講生より「集中力・学習意欲の高まり」があったとの評価を得ると共に、授業に組み込んだゲーミフィケーション要素についてもほぼ企図したとおりの理解を得ることができました。
2. 小学校教育においてのゲーミフィケーションの実践
新学習指導要領(2012 年4 月実施)では「生きる力」の育成のため授業形態の創意工夫が求められています。大学研究室の学生らと共に、ビデオゲームを題材として「楽しみながら学ばせる」という新しい授業形態の試み(小学6 年生52 名対象)を行いました。
まず「なぜゲームは面白いのか?」と問いかけ、自発的に関わることの楽しさに気づかせます。次に、パソコンを使ってアクションゲーム作りに挑戦。意図的にゲーミフィケーション要素を用いた授業進行で、児童が活発に意見を交わし、また互いの作ったゲームを肯定的に捉えられるような雰囲気作りに努めました。
結果、児童全員から「ゲーム作り体験は楽しかった」との感想を得ることができ、さらに「もの作りの苦労」「ふだんの勉強の大切さ」への気づきが約4 割の児童に認められました。
今後の研究としては、現授業のクオリティアップに加え、対象年齢層を変えてタブレット端末を用いた「幼稚園児向けゲーム授業」、Kinect を用いた「シルバー世代向けゲーム授業」なども計画しています。
皆さんがゲームクリエイターとしての仕事の中で身に付けている経験や知識の蓄積は、エンターテインメントだけでなく、広い分野の社会活動に活かすことが可能なものです。
「ゲームとは人を幸せにするもの」なのです!!