インディーゲーム開発者の復権
著者: 黒川 文雄私がゲームビジネスに関わるようになったのは1993 年からのことです。それは次世代機と呼ばれたセガサターンとプレイステーションの発売が「ゲーム次世代機戦争」と呼ばれた、1994 年にかけての時期でした。
あれから約20 年の月日が流れました。マシンのスペックはもちろんのこと、CG の描画表現技術、ゲームの容量やレトリックは飛躍的に進化しました。それは2013 年3 月25 日から29 日までサンフランシスコで開催されたGDC に参加して改めてそれを感じることができました。
コンピュータゲームはアメリカで生まれ、そして日本で成長したと言っても過言ではないでしょう。アメリカで生まれたことを象徴することとして、今回のGDC2013 でも、「パイオニア賞(アワード)」として『スペース・ウォー!』を開発したスティーブ・ラッセル氏が受賞しました。文字通りゲームの「開拓者」としての功績を表したものです。
GDC では過去に、日本人クリエイターが何人か表彰台に上がったことがありますが、ここ数年はありません。それは、個人的な考えですが、アメリカにおけるコンピュータゲーム復権を感じさせるものです。ゲーム発祥の国、アメリカの復権です。かつて、アメリカで生まれ、日本に主権を奪われたコンピュータゲームの主権を再び取り戻すべく動き出した開拓者の国、アメリカ。自分たちの作りたいものを自分たちでできるやり方でやるという気概を感じることができました。
もっとも、それまで主流だったハイエンドCG を駆使した作品も、今後は徐々に違う方向性に向かっていくのではないかと思います。GDC 最終日の「IGF 賞」(インデペンデントゲームアワード)と「ゲームデロッパーズチョイスアワード」のノミネート作品は大型作品がラインナップしていました。しかし、表彰式の会場での雰囲気はやや異なるものでした。大型作品がノミネートされ、ハイエンドCG を駆使したダブル・トリプル・ミリオンクラスの販売を誇る作品の続編ばかりです。しかし、さほどの歓声は起こらず、「まあ、そんなもんだろう……」という感じです。幸い、それぞれ順当な、サウンド賞とか、ビジュアルグラフィック賞などを受賞しました。
ところが、ラストを飾る最優秀作品は『THE WALKING DEAD』を押しのけて『JOURNEY(風ノ旅ビト)』(PS3 向けのダウンロードソフト)が受賞しました。なんと6部門で優秀賞を受賞です。最優勝賞の歓声のすごさは他の作品に比ではありませんでした。例えれば「やったぜ!」とか「俺たちの(インディー)代表作品が選ばれたぜ!」という感じです。スタンディングオベーションで拍手はしばらくの間、鳴りやみませんでした。
もっとも『風ノ旅ビト』そのものは大きな収益を上げているわけではないといいます。しかし、ゲーム開発者のイベントならではの歓声だと思いました。つまり自分たち(インディーズまたは開発者)の代表のような小規模なスタジオの作品が受賞した……という歓喜があったのではないでしょうか。また、日本でも同じような現象はありますが、エンタメの細分化が加速し、ニッチな市場やミニマムな中においてマジョリティを取れればいいというのがインディーズのルーツで、そのなかで食えればいいし、うまくブレイクスルーすれはもっと上を目指せる! 的な発想がベースにあるからだと思います。
『風ノ旅ビト』そのものは最先端のCG が動く世界観でもありません。むしろプリミティブなゲーム原理主義的な作品と言ってもいいでしょう。おそらく、最先端のゲームのアンチテーゼのような作品かもしれません。『スペース・ウォー!』が生まれて約50 年。どんなにテクノロジーやデバイスが進化してCG 描画が美麗になり、ゲームのレトリックが変わっても、人間のイマジネーションを凌駕することは難しいと思います。ゲームやコンテンツにおける「創造性」は、ユーザーにとっての「想像性」ではないかと思うことがあります。言ってみれば自動車におけるハンドルの遊びのようなものがないといけません。つまり誰もがレーシングカーを運転できるわけではありませんし、それを欲しているわけではなく、高機能であっても高性能でなくてもいいということです。