「はたらくゲーム」を作ろう
著者: 藤本 徹「ゲームクリエイターが社会で活躍する場は広がってきた」。これが、私が本書の読者の皆さんにお伝えしたいことです。
以前からゲームは「くだらない」「有害な」「不健全な」といったネガティブなイメージに付きまとわれており、今でも何か事件や社会問題が起きるたびにゲームがやり玉に挙げられる状況は根強く続いています。
そうしたゲームへの批判に対し、以前は「ゲームはそんなに悪くない、いいところもある」と受身な反論でやり過ごす感がありましたが、最近ではむしろ積極的にゲームが社会のためになる、社会を良くするためのゲームならではの方法がある、という考え方での取り組みが活発になってきています。
エンターテインメントを超えて社会の問題解決のためにゲームを活かそうという動きは、「シリアスゲーム」と呼ばれ、2002 年にまず米国で、産学官でのシリアスゲーム推進を支援するプロジェクト「シリアスゲーム・イニシアチブ」が設立されました。そしてGDC で最初のシリアスゲームサミットが開催されたのが2004 年のことでした。社会変革のためのゲーム「ゲームズ・フォー・チェンジ」、医療福祉分野のためのゲーム「ゲームズ・フォー・ヘルス」などのグループも形成され、さまざまな呼び方が提唱されているものの、シリアスゲームの基本となる考え方自体は広く普及し、定着しています。初期の動きから現在すでに10 年が経過した現在、もはやゲームはエンターテインメントのためだけのものではなくなったといっても過言ではありません。
米国を中心に、欧州やアジア諸国でも、シリアスゲーム専業のゲーム開発会社が次々と設立され、ゲーム開発者人材の雇用を生んでいます。ベンチャー企業だけでなく、マイクロソフトやEA のような大手企業も参入しています。ゲーム研究で学位を取得し、ゲーム研究者として身を立てる若手研究者や、シリアスゲームデザインを大学院で学んで起業するシリアスゲームクリエイターも年々増えてきています。地域のクリエイティブ産業振興の柱としてシリアスゲームを取り上げて、産学官連携プロジェクトを推進する事例も出てきています。
これらの状況は、国内のエンターテインメント産業だけを見ているとあまり想像がつかないかもしれません。しかし国内でも、たとえば福岡市、GFF、九州大学で行われているシリアスゲームプロジェクトのような取組みが見られるようになりましたし、日本デジタルゲーム学会の大会で行われる研究発表には、福祉分野や教育分野などのシリアスゲームの研究事例が目立つようになりました。ゲームの作り手が持つ技術を活かす機会が以前よりも増えてきているのです。
その一方で、エンターテインメントゲームの作り手からすると、シリアスゲームはやや地味なテーマとして見られがちです。自動車に例えれば、最先端の人気ゲームはスーパーカーやスポーツカーのようなもので、シリアスゲームはいわば消防車やクレーン車のような「はたらく自動車」でしょう。スーパーカーの格好良さに魅せられてこの道に進んだクリエイターには、あまり自分がやるべき仕事という感じがしないのかもしれません。
ですが、すでにゲームが産業としてここまで大きくなる中で培ってきた高度な開発技術は、すでに娯楽や嗜好を満足させる以上の、他の産業が持たない社会を変える力となっています。優れたゲームを作るのは高い技術や創造性を要する仕事なので、そう簡単には良いゲームは作れません。社会のための「はたらくゲーム」を生み出せるあなたの力への期待は高まっているのです。
あなたがもし、エンターテインメント業界で十分な手応えを感じてなかったり、ちょっと疲れたと感じていたり、あるいは何かもっと面白いものを作ってみたいと考えているとしたら、少し既存産業の枠の外に目を向けて、社会のための「はたらくゲーム」作りという選択肢を考えてみてはいかがでしょうか。そこにもあなたのゲームへの熱意と創造性を活かす道が見えてくるかもしれません。